管理会計を過信すると倒産にたどり着く〜その2

(承前)


−−−経営は科学です−−−

もちろん経営者の勘と経験は、経営において非常に大きな武器となります。
経営とは判断の連続ですから、ある事実に基づいてどう判断するかは経営者の腕の見せ所でしょう。
それでは優秀な経営者であれば、ゴミデーターからでも確実に正しい判断が出来るのでしょうか。
そんなはずはありません。優秀な経営者であればあるほど、その判断材料とするデーターには正確性を要求するはずです。
つまり経営者が勘と経験を活かすためには、科学的な根拠を持つ正確なデーターが必要となるのです。
その判断の根拠となるべき固定費と変動費の分類を勘と経験に頼るのは、間違った方法なのです。
それではどうすれば科学的な根拠を持つ固定費と変動費の分類が可能となるのでしょうか。


−−−固定費・変動費とはどのようなものかを再度考えてみましょう−−−

それではもう一度基本に立ち返ります。
固定費・変動費とはどのようなものだったのでしょうか。
「売上高や販売量の増減」に影響するかしないかで分類することになっていたはずです。
給料・仕入・外注費・減価償却費などの勘定科目で分類すること自体が間違いだったのです。
ということは「売上高や販売量の増減」に影響するかどうかをチェックすれば良いことになります。
そんな方法があるのでしょうか。

統計学といわれる学問があります。
Wikipediaでは次のように説明されています。
統計学は、経験的に得られたバラツキのあるデータから、応用数学の手法を用いて数値上の性質や規則性あるいは不規則性を見いだす。統計的手法は、実験計画、データの要約や解釈を行う上での根拠を提供する学問であり、幅広い分野で応用されている。
データーの解釈を行う上での根拠を提供する学問が統計学ですから、まさにこれを用いて固定費と変動費を分類すれば良いことになります。
具体的には、相関係数を用いて分析する方法が使えます。
相関係数とは二つの数字の間に相関関係があるかどうかをチェックするものです。
これを用いて売上高と各種費用をチェックすることで、相関関係が高ければ変動費、低ければ固定費と判断することが出来ます。
ここから得られた結果を踏まえた上で経営者の勘と経験を用いることで、かなり科学的な根拠のあるデーターを得ることが可能となります。


−−−広告宣伝費を削減すると売上高が下がるのでしょうか−−−

S社は老舗の宝石店です。数年前に無事事業承継を済ませ、2代目の経営者が経営にあたっていました。
宝石店はどこも夏と冬には売り出しセールを行いますので、その前にお客様にDM(ダイレクトメール)を出すことが多いようです。
ご多分に漏れず、S社も夏と冬にはDMを送っていました。
宝石業界には専門のDM業者がおり、各店舗毎に趣向を凝らしたDMを作成しています。
S社もここに依頼してDMを作成していました。
最近よく見かけるものに、はがき1枚の大きさで、裏表を貼り合わせることで広げるとはがき6枚分の紙面が使えるDMがあります。
S社はこれを利用していました。
裏表にびっしりと、美しい宝石の写真がちりばめられているDMだったため、撮影料も含めると数百万円という結構な金額となりました。

さて、このDMにかかる費用は固定費でしょうか・変動費でしょうか。
お客様の購買意欲をかき立てる事で販売数を向上し、売上高を増加させるのが目的ですから、一般的には変動費だと考えられているようです。
当然S社の社長もそう考えていました。

ここ数年、売上高が減少傾向にあったので社長に尋ねたところ、このDMによって売上を何とか確保できているという話でした。
わたしは別のところに原因があるという仮説を立てていましたので、過去5年間にわたり相関係数を用いて固定変動の分類を見直すことにしました。
すると思った通り、このDMが中心の広告宣伝費に異常が見られました。
売上が減少傾向に移行した年を境に、相関係数が0に近くなっていったのです。
相関係数とは1に近いほど関係が深いことを表し、逆に0日かければ関係が希薄になっていることを表します。
つまりある年を境に、本来変動費であるべき広告宣伝費が固定費化していたのです。


−−−常識は、時には邪魔になってしまいます−−−

この結果を踏まえて検討を重ねた結果、このDM費を削減することになりました。
やはり当初の仮説通り、DMを安価なものに変更したところで売上には変化が見られませんでした。この年度はDM費削減分の1千万円ほどが利益にプラスされることになりました。
固定費は削減したところで売上高には影響を及ぼさないという管理会計の理論そのままです。

そこでその費用の浮いた分を別の広告宣伝に用いたところ、見事売上高は回復したのです。
美しい宝石には美しいDMをという業界の常識は、これで覆されたことになります。
業界の常識とは、誰かの勘と経験の産物に他なりません。
必ずしも全てのケースに当てはまるとは限らないのです。

わが社の特性と傾向を分析し、判断材料となるデーターには科学的根拠を。
これを怠って管理会計を過信しすぎると、倒産への道を歩み始めることになります。
管理会計は諸刃の剣であることをしっかりと認識した上で、正しく利用されることをお勧めいたします。
(了)