固定費削減の落とし穴ーその3

管理会計における手法の一つに「固変分析(CVP分析)」があります。
これはすべての費用を「固定費」と「変動費」の二つに分けて分析する手法です。
既にご承知の方も多いと思いますが、「固定費」とは「売上高や販売量に関わらず発生する費用」の事を指し、「変動費」とは「売上高や販売量に応じて変動する費用」の事を言います。

なぜこのような分類をするのかというと、分類そのものに必要性があるわけではなく、「増益における経費削減の効率性」の要請からのものとなります。
これは「売上高や販売量に応じて変動する変動費をむやみに削減すると、それに応じて売上高も減少してしまう恐れがある」という問題があるとされているからです。
その代表例として「仕入高を減少させると、それに応じて売上高も減少する」というものがあります。
確かにこの理論でいくと「売上高や販売量に関わらず発生する費用」である固定費を削減する事ができれば、売上高を減らす事なく経費削減が可能となり、結果増益となる事になります。
果たしてこれは本当なのでしょうか。


この真偽を見ていく前に、固変分析の理論についてすこしお話ししましょう。
固変分析における重要な概念の一つに限界利益というものがあります。


限界利益=売上高−変動費=財務会計上の利益+固定費


この「限界利益」とは「売上高ー変動費」で計算されるもので、売上高と純粋に比例する利益を指します。売上高から「売上高や販売量に応じて変動する費用(変動費)」を差し引くわけですから、必然的に売上高に比例するものだけが残ることになります。このことから限界利益とは「純粋に売上だけから最大限稼得することができる限界の利益」を指すことになります。
そしてこの限界利益から固定費を差し引いたものが、財務会計上の利益となります。
財務会計上の利益とは「売上高ー費用」で計算されます。管理会計ではこの「費用」を「固定費と変動費」に分けたのですから

「売上高ー変動費=限界利益」
「限界利益ー固定費=財務会計上の利益」

となるわけです。


過去2回に渡っては固定費を削減した場合の問題点について言及してきましたが、今回は変動費について見ていこうとおもいます。
先ほど「売上高や販売量に応じて変動する変動費をむやみに削減すると、それに応じて売上高も減少してしまう恐れがある」という管理会計上の理論について「仕入高を減少させると、それに応じて売上高も減少する」という例をあげました。おそらく管理会計を信奉(あえてこういう表現を使います)している人たちであれば、ほぼ全員がこれに対してYESと答えるでしょう。
それではこの真偽について解説してみます。


つまり「本当に変動費を減らせば売上高も減るのだろうか?」という、固変分析の本質への問いかけとなります。

その例として「仕入高を減少させると、それに応じて売上高も減少する」について反論してみます。
解答から先に示しますと「仕入高=単価×数量」だということで問題は解決することになります。

管理会計の限界は「仕入高そのものを一つの変動費」と見ているところにあります。確かに「仕入の数量」を減少させてしまえば、販売する商品がなくなりますので「それに応じて売上高も減少する」ことになります。

しかし「仕入単価の下落」はどうでしょう。
このケースでは、確かに仕入高は減少しますが「それに応じて売上高は減少しない」ことになります。
この場合の問題点は「仕入高=単価×数量」を度外視したところにあるのは明白です。


それでは「仕入の数量」に着目して管理会計を用いればいいのでしょうか。
残念ながら「数量」は会計(特に財務会計)では扱わない単位なので、これは不可能となります。
「固変分析」を中心とした管理会計における手法の大半は、財務会計の手法で作成された財務諸表をベースとして行われます。
財務会計は「債権者のための会計報告」を目的としています。そもそも経営管理など全く想定外で発達してきましたので、それをそのまま経営管理に用いることはナンセンスだということになります。


ここからもわかりますように、固定費を減らしても、変動費を減らしても、同じように利益は増えます。考えなければならないのは「固定費を減らす」のではなくて「売上高を減少させないように経費を削減するにはどうすればいいか」です。

本当はこの前に「本当に売上高を減少させてはならないのか?」という大きな問題があるのですが、それはまた次回。