動物行動学から見る人材教育<やらせて確認する>

-----「はい、わかりました」はデマカセです-----

馬は言葉を介した意思疎通が出来ません。ですから馬がほんとうに理解したかどうかを確認するのに「お前、ほんとうにわかったのか?」と聞いたところで返事が返ってくるはずがありません。そこで馬が理解したかどうかは必ず「やらせて確認」することになります。教えて、反抗無くこなせるようになって、最後に自分で考えてできるかどうかをチェックします。この馬のトレーニング方法を通して、逆に見えてきたものがありました。


「お前、ほんとうにわかったのか?」誰でも一度は言われたことがあるフレーズだと思います。皆さんはおそらく「はい、わかりました」と答えたことでしょう。そして多くの場合「お前、『はい、わかりました』って言ったじゃないか!」と言われたのではないでしょうか。この一連の表現はよくある表現だと思われますが、なぜよく耳にするのでしょうか。



-----本当に理解したことを「腑に落ちる」と言います-----

1)「お前、ほんとうにわかったのか?」
2)「はい、わかりました」
3)「お前、『はい、わかりました』って言ったじゃないか!」

この一連の表現の中で問題があるのはどれなのでしょう。(1)と(3)は教える側の確認作業なので間違いではありません。ということは(2)が間違いであって、本当はわかっていないのに「わかりました」と答えているところが問題であるということになります。
それでは(2)の「はい、わかりました」はウソだったのでしょうか。
いいえ、ウソではありません。それではなぜわかったにもかかわらずできないことが多いのでしょうか。

頭でわかっていることとそれを自由に使いこなせることは別だからです。部下は上司から説明を受けると頭では理解できます。しかしそれを使いこなそうと思えば、完全に消化して自分のものにしなければなりません。
これを腑に落ちると表現します。
人は腑に落ちたことでなければ応用させることができません。これが(2)「はい、わかりました」の真実だったのです。

となると、(2)が間違いであるとする従来の考え方は、本当に正しいのでしょうか。わたしもずっとこれが正しいと思ってきましたが、馬のトレーニングを通して本当の間違いの原因は別にあることがわかりました。
実は問題がある部分は(1)だったのです。



-----元凶は上司の質問にありました-----

部下に「お前、ほんとうにわかったのか?」と尋ねることは、馬に「お前、ほんとうにわかったのか?」と尋ねることと同じです。なぜならば、返ってくる回答はどちらのケースも信頼できないからです。この一連の表現の中で(2)の「はい、わかりました」は信頼できないものだということは、初めから誰もが理解しているはずです。であるにもかかわらず(1)のように「お前、ほんとうにわかったのか?」と尋ねること自体がナンセンスだということになります。

それではどうすればよかったのでしょうか。
馬のトレーニングでは、馬が理解したかどうかは必ず「やらせて確認」することになります。
人も同じです。
わかったかどうかを尋ねて確認するのではなく、やらせてみてその応用度合いをチェックすることで確認しなければなりません。
部下を指導する過程において、最終目的は「お前、『はい、わかりました』って言ったじゃないか!」と怒鳴ることではありません。部下がそれを腑に落ちるまで理解することが最終目的
です。
であれば、上司がしなければならないことは理解したかどうかのチェックです。

上司も怒鳴りたくて怒鳴っているわけではないのでしょうが、その原因は実は自分に合ったことを理解している人はほとんどいないのではないでしょうか。