オンリーワン取引は危険度100%ーその4

(承前)
次に【3】経営判断をする頭脳が実質的に一つである場合について解説します。

これは中小企業経営の特徴とも言えるものですが、判断ミスリスクです。
取締役会が機能している企業ではその取締役の数だけ経営判断をする頭脳が存在しますが、ほとんどの中小企業においては経営頭脳=代表者一人となっています。
単純に考えればわかることですが、われわれは万能ではありません。
知識や経験も不足している部分が多いでしょう。
その代表的なものが税務です。
法人であれば、ほとんどの企業に税理士がついているはずです。
これは税務申告に関する知識や経験の不足を補うためでしょう。
税務や法務、マーケティング、SEOなど各論的な業務につきましてはアウトソーシングする経営者が多いのですが、総論的な経営判断そのものの助言を外部に求める人は非常に少ないようです。
経営判断は、新規開業時から事業撤退時まで全てのシチュエーションで必要とされます。
最も頻繁に必要とされるのが通常の経営時です。
企業経営の際に、最も必要とされるスキルが会計なのです。
会計を用いずに経営判断が出来るはずがありません。
しかし残念なことに、日本の経営者は総じて会計が苦手です。
会計を上手く経営に使うことが出来ないのです。
そしてそれが日本における倒産の最大の原因となっています。
マーケティングにも会計が必須なのですが、ここに気づいている人はごくわずかでしょう。
会計がわからなければ、そのマーケティングが真に利益をもたらしたのかどうかの判断ができなくなるからです。
マーケティングの成否は売上高の増加ではありません。
経常利益の増加なのです。

マーケティングコストを差し引いたら赤字になっているケースが非常に多いのですが、これは詳細な会計データがなければ検証不可能なのです。

企業規模が大きくなればなるほど、会計の重要性を痛感する経営者が多くなるようです。
これは逆にいうと、会計の重要性を理解した経営者だけが生き残っているといえるのでしょう。
このリスクを回避するためには、経営陣を複数化する事が重要となります。
とはいえ役員を増やす事はかんたんではありません。
そこで次善の策として、多くの経営者を指導してきた経営コンサルタントへのアウトソーシングが有効となります。

ただし、ここにはひとつ重要な問題があります。
経営判断をする場合に必要となる非常に重要なファクターに税務があるのです。
確かに経営上は有効であったとしても、税法がそれを認めないケースもよくあります。
スペシャリスト系コンサルタント(営業、マーケティング、資産運用など)には、この税法知識が欠落していることが良くあるので、注意が必要です。

弊社のお客様でも、スペシャリスト系コンサルタントから受けたアドバイスが税務上問題があるため取り入れられなかったケースが少なからずありました。
中にはすでにやってしまってから相談にこられたために大きな損失をこうむりかけたケースもありました。
土地の有効活用について友人の弁護士に相談したところ、等価交換というものを教えてもらったK社長は、さっそく借地権と交換条件にビルを建てる契約を締結しました。
そしてビルの建築について、これも友人の建築会社と契約をした後で弊社に相談に来られました。
併設の会計事務所で調べてみたところ、この等価交換は税法では認められない類のものであることが判明しました。
税法で定められている要件に合致しなかったのです。
このままでは数千万円の納税が発生することになりますので、過去の判例や立法趣旨などをくまなく調べました。
幸いこの案件は、等価交換の手法を使わなくとも別の方法があることが判りました。
このように奇跡的に損失を免れたケースもありますが、ほとんどの場合はそうではありません。
一歩間違うと企業存続を左右しかねないほどの問題となりますので、注意が必要です。

一般的に「好況時にはゼネラリスト系コンサルタントが、不況時にはスペシャリスト系コンサルタントが必要である」と言われるようですが、これは大きな間違いです。
不況時に経営判断をミスすると、取り返しがつかないことになります。
さらには不況時をいかに脱出し、その後の好況時を想定して経営計画を立てる事が出来れば、大きな発展も夢ではないのです。
力強い馬の駆歩のように、大きな伸張のためには必ず収縮が必要です。
不況時にしたばたせず、うまくこの収縮に利用できた企業だけが、次のチャンスに乗って大きく伸張することが出来るのです。(次回へ続く)