固定費削減の落とし穴ーその1

最近は管理会計がブームであるかのように取りざたされているようです。
よく切れる刀は取り扱いを間違えると危険であるように、この管理会計も取り扱いを間違えると経営改善どころか業績悪化を招くことになります。
 
その一つに固定費削減があります。
固定費とはご承知の通り売上高や販売量の変化に関わりなく生じる費用のことです。
この固定費の区分には、様々な問題点が内在していますが費目で分類しているケースがほとんどでしょう。
このように見た場合、固定費の代表的なものには減価償却費・給料・地代家賃などがあります。
 
 
今回は給料について掘り下げてみようと思います。
給料は固定費であると思い込んでいる人も多いようですが、少なくとも売上高に連動する歩合給部分は変動費を構成します。
それではこの歩合部分を除いた固定給部分は、固定費なのでしょうか。
これだけでは判断がつかないかもしれませんので、もう少し範囲を狭めてみましょう。
営業事務に携わるバックオフィスでの従業員に対する給料(固定給です)は変動費でしょうか、固定費でしょうか。
固定費とは「売上高や販売量の変化に関わりなく生じる費用」ですから、どうやらこれは固定費として区分されるようです。
 
 
 
ここに大きな落とし穴があるのです。
 
 
 
管理会計の解説書によれば、間接部門の人件費は固定費だとされています。これらは「売上高や販売量の変化に関わりなく生じる費用」だからです。
それでは固定費である間接部門の人件費を削減しても売上高や販売量は変化しないのでしょうか。
 
今回問題にした例は、実際に最近よく聞く話です。
経営を改善するために管理会計を導入したところ、固定費を削減するように言われた経営者がたどり着くところといっても良いかもしれません。
 
 
 

このような実例があります。
J社は事務機器の販売会社です。
社長と専務を筆頭に、営業社員が20名ほどいます。
彼らをサポートするバックオフィスの社員が5名います。
当初業績が良かったJ社も、景気後退の影響を少しずつ受け始めました。
ここで社長が飛びついたのが管理会計だったのです。
ある経営コンサルタントから固定費削減を指示された社長は、地代家賃・減価償却費・人件費をそれぞれ削減しようと考えました。
地代家賃については家主と交渉してはみたものの、残念ながら下げてはもらえませんでした。
減価償却費については削減したところでそれほどの額にはなりませんでした。
ということでバックオフィスの社員を削減することになりました。
全部で5人いる社員の働きを精査してみたところ、優秀な2人で9割方の営業のサポートをしていることが判りました。
ということで3人は無駄だと判断した社長は、このうち2人を整理しました。

これで固定費の削減が出来たので予定通り利益が向上してくると思っていた社長は、信じられないものを眼にすることになります。
事務社員を整理した月から、売上高が目に見えて減ってきたのです。
 
 
さて、なぜこのような事態が起こったのでしょうか。
(次回へ続く)