経歴詐称が疑われて否決されたケース

K氏は現在66歳。あるメガバンクで定年まで勤め上げた元銀行マンである。
現在100件程度のクライアントを持つ経営コンサルタントであり、事業内容は「伝票整理、記帳代行、経営助言、融資助言」である。
年商1,500万円、当期純利益200万円。従業員は雇わずに自分ひとりの個人企業である。事業所得以外に年金収入が年間80万円程度ある。


今回の借入目的は設備資金。自動車の買換資金の依頼である。融資申込額は200万円。
まずは形式基準から判断して・・・といいたいところだが、いきなり待ったがかかった。ここまでで既に問題が介在するのだ。


「メガバンクで長年勤めたのに年金収入が年間80万円というのはあまりにも少なすぎると思いますが」


通常メガバンクであれば社会保険に加入しており、一般的な年収で考えても年金収入が年間80万円というのはあり得ない額である。これは国民年金レベルの金額なのだ。
なるほど、これでは「メガバンクで定年まで勤め上げた元銀行マン」という経歴が疑われることになる。しかし、確かに経歴詐称が疑われはするものの立証することは出来ないうえ、経歴に融資をするわけではないので継続して審査を進めることとなった。
するとすぐに次の問題点が浮かび上がってきたのだ。


「損益計算書に人件費が計上されています」


K氏は1人で事業を行っていることは、現場でも確認済である。そこで担当者に確認したところこの人件費は架空であることが判明した。
他にも何か気がついた点がないかを担当者に確認したところ「もうすぐ確定申告時期なので忙しくなるという話でした」という回答。
ここで2つめの問題点が浮かび上がってきた。反社会的行為に該当する可能性があるのだ。

反社会的行為というと「暴力団排除条項」が有名だが、それ以外にも金融機関が考えるものはいくつか存在する。
・納税の遅滞
・社会保険料の滞納
・無資格経営
他にもあるが、一般的にはこのようなものがよく見られる。
納税の遅滞はよく知られるところであるが、社会保険料の滞納は知らない方が多いようなので注意が必要だろう。
無資格経営とは、いわゆる「ニセ弁護士」や「ニセ税理士」など、本来資格がなければ手がけることが出来ない専門職を無資格で行っている者を指す。
K氏は「ニセ税理士行為」の疑いが濃厚であり、これは反社会的行為に該当するのである。


結論は否決。
審査以前の問題である、というのがその理由だ。
みなさんに知っておいていただきたいのは、ここから先だ。
融資担当者がK氏に伝えた否決の理由とは次のようなものである。


「今回購入予定のお車は○○ですね。実は審査会議においてこの車はレジャー志向が強く事業遂行上必要であるとは考えにくいという結論に達しました。ご期待に添えず残念です」


ご記憶にある方もいらっしゃるかとは思うが、K氏の事業内容には「融資助言」があるのだ。にもかかわらず、である。この購入予定であった車は確かにレジャー志向の強いものであったものの、これを使って事業が出来ないわけではない。さらには自動車会社が取り扱うローンであれば何ごともなく通ると思われる。ここが事業資金融資と個人ローンの大きな違いとなる。金融機関が事業資金として融資する場合には、たとえ返済可能であることが明らかであっても否決されることがあるのだ。

融資審査会議において否決となった本当の理由が経営者本人に届くことはほとんどない。
「2期連続赤字だから」とか「業績が悪化しているから」という理由で融資を断られた方もいらっしゃるだろうが、それ自体が真の理由であることはほとんどない。ここについてはいずれこの場で明らかにする予定であるが「3期連続赤字」であろうが「数千万円の債務超過」であろうが融資は実行される。赤字や業績悪化などの理由で否決された場合には、往々にして真の理由は他にあるものなのだ。

(注)ストーリーそのものは架空であり、事業者も特定できないようにしています。ただ各回でポイントとなっている部分は事実であり、実際に審査会議で問題となった部分です。